アメット
毎日のように天井に投影される画像が時間の経過と共に変化し、定期的に雨がドームの中に降り注ぐ。
常に清潔感が保たれ、生活に至っては大半のことは機械が行ってくれる。
それに最下層と違い大気が綺麗で、防護マスクなしでも暮らせるのが最大の利点といっていい。
「防護マスク」という部分に、クローリアが過敏に反応を示す。
彼女は産まれてから今までこの澱んだ大気の中で暮らしているのでどれだけ汚いのかわからないが、上部から来た者にとってこの大気は健康を害する。
だから常に防護マスクを装着し、自身の健康を守る。
「素敵な場所なのですね」
「ああ、この階層とは違う」
この場合、気を使った言葉を返すのが適切だろうが、そのような言葉を返されてもクローリアは喜ばない。
それどころか、逆に気を悪くしてしまう。
上辺だけの言葉は相手を傷付け、下の者を見下す優越感になってしまうことをシオンは知っているので、正しい言葉を返した。
「行ってみたいです」
「でも、それは……」
「わかっています。それは無理だと、父と母に言われました。ですが……その……ご迷惑ではなければ、色々と……」
「構わない」
「有難うございます。それと、両親や旦那様や奥様には内緒にしていて下さい。いい顔をしないと思います」
「約束する。その代わり、この階層について色々と教えて欲しい。知らないことが、多すぎた」
シオンの頼みにクローリアは先程とは違い嬉しそうに微笑み頷き返すと、最下層での生活方法やどのような仕事が成り立っているのか話していく。
そのひとつひとつにシオンは驚きと同時に彼等の逞しさを知り、高い文明や文化にどっぷりと浸っている自分は生活できないと悟った。
「25歳?」
「見えない?」
「もっと、上と思っていました」
辛辣とも取れる言葉に、シオンの心が抉られる。
確かに、クローリアの言いたいことはわからなくもなく、防護マスクをつけている状態では正確な年齢を把握するのは難しい。
またシオンは身形に気を使う方ではないので、それも合わさり実年齢より高く見られてしまった。