アメット

 最下層に、医者は存在していない。

 だから何とか上に掛け合って高い薬を送って貰い、それを服用し続ける。

 しかし正しい診断を受けない中で薬を服用し続けていても治るものでもなく、結局長引いてしまう。

 それが何年続くかわからないが、彼女の生活も楽ではない。

 元々物資が乏しい最下層で、更に苦労な生活をしているのがクローリア。

 彼女に対して何かしてあげたいという気持ちがないわけではないが、生憎シオンは医者ではなく科学者。

 専門外のことなので、彼女の父親を診断することはできない。

 それなら、何をしてあげればいいか――

 ふと、ひとつのことを思い付く。

「今回の案内は、仕事でいいか?」

「どういう意味でしょうか」

「俺を案内してくれることが、君にとっての仕事。だから、それに相応しいお金を支払うよ」

「い、いけません」

「何故?」

「旦那様と奥様は、普通に案内するように言っていました。ですので、お金を頂くなど……」

 確かに、彼女の意見は正しい。

 それに報酬を支払うとは言っていても、見方を変えれば階級が上の者が階級の下の者に金品を恵んでいるように見えなくもない。

 勿論シオンはそのようなつもりで言っているのではないが、クローリアは頑なに報酬を貰うことを拒否する。

「別の手伝いは?」

「別……ですか?」

「そうだね……地図の修正の手伝いって、どうかな? これなら、クローリアもできるはず」

「しかし、私には使えません」

「おかしな部分を指摘してくれればいい。これに関しては、元々予定としていなかった。だから、これは個人的なお願い。本当はしなくてもいいんだろうけど、やはりきちんと記録には残しておきたい。それに今後最下層へ来る人物がいたとしたら、これを利用すればその人物も助かるよ」

「それでしたら……」

「うん。決まりだ」

 多少、強引な一面があったが、クローリアは彼の頼みを受け入れる。

 シオンはクローリアに見えるように地図を展開させると、何処がどのように間違っているのか尋ねながら修正していく。

 彼女も課せられた仕事を懸命にこなし、シオンに間違っている部分を指摘していく。
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