アメット
クローリアの案内と指摘により、徐々に地図が更新されていく。
それによりわかったことは、渡された地図が全くといっていいほど使い物にならないというもの。
別の地図を渡されたのではないかと錯覚を覚えるほど酷いもので、上のいい加減さが出ている代物だった。
一体、どれくらいの年月更新されていなかったのか。
それとも、最初から別の地図を手渡されたのか。
内心、あの上司ならやりかねないと思えなくもないが、クローリアを目の前にして上司の愚痴を言っていいものではないので、苛立ちに似た感情を抑えながら更新を進める。
その間も、クローリアの案内と説明が続く。
特に細道の先が入り組んでおり、もし一人で立ち入っていたら完全に迷っていただろう。
それに防護マスクをつけているシオンを不審に思っていた者達も、クローリアが側にいるということで到着時に感じられた警戒心がない。
それどころか何をしているのか尋ねてきたり、またシオンが何をしに最下層に来たのか知っている者は協力を申し出る。
数々の心遣いと親切心にこれまた最下層の別の一面を知り、上部に暮らし下部の者を見下している者達の方が汚い心を持っていると、シオンは現状を嘆く。
ふと、何を思ったのかクローリアがその場で脚を止める。
また何か言いたげな様子で、一定の方向にチラチラと視線を送りながら、モジモジとしだす。
そんな彼女の可愛らしい態度にシオンは疑問を覚えつつ首を傾げるも、遠慮しなくて言って構わないと優しく彼女に声を掛ける。
「あそこが、私の家です」
「寄る?」
「宜しいのですか?」
「特に、急ぐ仕事じゃないから」
「有難うございます」
シオンの言葉を聞いた瞬間、クローリアの表情が先程以上に明るくなる。
彼女は先に行き両親に上部から大気汚染の調査に来たシオンのことを話しておくと言い残し、駆け足で自宅へ向かう。
余程両親に会えるのが嬉しいのだろう、彼女の声音は弾み生き生きとしていた。
年齢は17歳と言っていたが、まだまだ子供っぽい一面が抜けないのだろう。
そうクローリアを評価すると彼女の自宅前まで歩みを進め、どのような家に暮らしているのか外観を見る。
建前を抜きにして、彼女が暮らしている家は古めかしく小汚い。
シオンが暮らしている階層では「廃墟」と見間違えてもおかしくない外観に、言葉を失う。
いや、このような外観を持っている建物はこれだけではなく、最下層にある全ての建物がこれと同じ外観を持っているといっていい。