アメット

 自分達より階級が上の者とは思えない慈悲深さに感銘を覚えたのか、クローリアの両親の態度が先程以上に恭しいものになる。

 彼等の何ともわかり易い態度の変化に、シオンは嬉しいどころか逆に呆れてしまう。

 また、ここまでされるほどのものではないと、自分自身に言い聞かせる。

「今、シオン様のお手伝いをしているの」

「迷惑じゃないのか」

「お手伝いに関しては、旦那様や奥様に言われたことだから大丈夫。それに、シオン様も困っているから……」

 金銭を貰うことを両親に言い辛いのか、クローリアは途中で言葉を濁す。

 見兼ねたシオンは代わりとばかりに、彼女がどのような手伝いをしているか話していく。

 何分、最下層を一度も訪れたことのない身分なので右も左もわからず、頼りにしていた地図も役に立たない。

 だから最下層の隅々まで熟知しているクローリアの案内は有難く、これにより地図の修正と大気汚染の両方を行うことができると、多少話を盛って話す。自分達の娘をこのように褒めてくれたことが余程嬉しかったのか、彼等から返って来た言葉というのは感謝であった。

「は、恥ずかしいわ」

「褒められているのよ」

「素晴らしいことじゃないか」

「で、でも……」

 親子とのやり取りを黙って聞いていたシオンは、他の最下層の住人と何処か対応が違うことに気付く。

 今までの者達はシオンを階層が上の人物と知っていながら、特別扱いすることなく普通に接する。

 それだというのに、クローリアの両親は自分達が謙って対応している。

 それについて疑問視するも、追求することはしない。

 これを好奇心を満たす道具に使っていいものではなく、尋ねたところで現在の態度を改めてくれるわけでもない。

 それどころかますます恭しい態度を取られたら、それはそれでいい気分はせず、どちらかといえば止めてほしい。

「ところで、シオン殿の階級は?」

「うん? それは……」

「ご職業が科学者と聞きまして、高い階級にいらっしゃるのかと……ご気分を害されたら、謝ります」

 それは純粋な好奇心というものか、父親の急な質問にクローリアは失礼なことを聞いてはいけないと注意する。

 それに対しシオンは苦笑すると、階級について話せないわけではないと前置きした上で、自分が一般的に「B階級」と呼ばれている階級に属していることを話す。
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