アメット
シオンが発した「B階級」という単語に、クローリアを含め彼女の両親が目を見開く。
しかし彼の階級の高さに納得する面もあったのだろう、それ以上の反応を見せることはしない。
だがはじめてみる階級が上の人物に緊張感は隠しきれないらしく、身体が震えていた。
「Bといっても、中途半端だ」
「ですが、我々よりは……」
「ああ……確かに」
思うことが多いのだろう、シオンは愁いを帯びた言い方をしてしまう。
現にシオンや同じ階級であるアイザックは、上司に苦労させられ面倒ごとを押し付けられ、愚痴を言われる。
そしてB階級が暮らしている階層にいられるのは、B階級の他に上のA階級と呼ばれる人物しか立ち入ることができない。
結果的にB階級の者は下の者にストレスの矛先を向けることができず、体内に蓄積していく。
だからといって、それが褒められた行為とは限らない。
シオンとアイザックが人目を忍んで愚痴を言い合うのも、そのようなことが関係している。
といって最下層に来た今、蓄積したストレスを発散する為に彼等を罵倒しようとは思わない。
それを行ってしまえば、何か大事なものを失ってしまう――そのような思いがあった。
人々を縛り付けている階級は「A」からはじまり最下層の「D」で終わる。
しかしA階級の人間がドーム全体を支配しているわけではなく、その上に「統治者」と呼ばれる者達がおり、その者達がドームを管理しているといっていい。
そして「統治者」は謎の多い集団。
「統治者様にお会いになられたことは――」
「現在の階級で、会うことはできない。A階級の者の中でも、ごく一部の者だけが会えると聞く」
まさに、天上人と呼ぶに相応しい存在。
B階級の身分で唯一わかるのは、三つの一族が統治者として君臨しているということ。
〈アンバード〉〈クルツ〉〈セレイド〉という一族の名前以外、顔さえも知らない。
それにシオンの上司はA階級の人間だが、統治者に会ったことはない。
シオンが語るドームを支配する階級制度に、クローリアは質問を投げ掛ける。
それは現在の階級を上げる方法があるのかというもので、娘の突拍子もない突然の質問に彼女の両親が慌てふためく。
何とも素直な――いや、素直すぎる質問にシオンは口許を緩めると、どうしてそのようなことを聞くのか逆に質問を返す。
それに対しクローリアは恥ずかしそうに俯くと、階級が上がればお金が稼げる仕事ができ、両親に楽をさせられるのではないかと、汚れを知らない純粋な気持ちを伝える。