アメット
しかしこれで全てが終了したわけではなく、次にドライヤーを持ち入り濡れた髪を乾かしていくのだが、彼にとって髪型はどうでもいいのか手櫛で髪を梳き適当に形を整えていく。
髪が完全に乾いた時の彼の髪型というのは、きちんと整えられたものではなくどちらかといえば寝起きの乱れた髪型に近い。
それでも男はこの髪型で構わないというのか、ドライヤーの電源を切りいつもの定位置に戻すと、ロッカーの中から携帯電話を含め私物を取り出す。
そして白衣のポケットから眼鏡を取り出し装着すると、使用したバスタオルを側に置かれている角が欠けている古めかしいプラスチック製の箱の中に投げ入れシャワールームを後にした。
◇◆◇◆◇◆
その後、男が訪れたのは普段仕事を行っている物々しい機械が置かれている研究室。
噂の人物の登場に研究室で仕事を行っていた者達の視線が向けられ、中には同情たっぷりの視線を向けて来る者もいる。
彼等の反応に男は何とも表現し難い表情を作りつつ自分専用のディスクに向かうと、報告書を書く準備を行なうが、電話の相手に言ったようにいい出来事ではなかったので嘆息が漏れる。
大気汚染が酷い外界に赴き、尚且つ未知の植物の花粉らしき物体を全身に浴びたということで帰還と同時に防護服の上から念入りに洗浄され、更に防護服を脱いだ後シャワーを浴びさせられる始末。
度が過ぎる彼等の行動に辟易しないわけではないが、それだけのことをする理由が理由なので男は半分諦めていた。
それに外界に存在している物体や物質は人間にとって悪影響を与える物が多く、今回は自分の不注意と認識の甘さが齎したものだと自分自身を納得させる。
再び男は嘆息すると椅子に腰を下ろしパソコンの電源を入れると、目の前にホログラムのキーボードを表示さる。
そして素早い動きでそれを叩き、気象データと外界の大気濃度を表示していく。
キーボードを叩くにつれ、彼の周囲に次々と表示されていく気象データと大気情報。
それらを黙読しつつ更にキーボードを叩き続け、強風に耐えつつ収集した情報を整理していく。
ふと、誰かが男の名前を呼ぶ。その声音に男はキーボードを叩く手を休めると、自分の前を呼ぶ者に視線を合わす。
その者は三十代後半の男で、科学者に似合わず筋肉質の体型が印象的。彼は男の前に来ると、収集データが欲しいのかそれを提供して欲しいと頼んでくる。