アメット
「それは無理だ。階級というのは、この世に生を受けた時点で決定される。両親の階級をそのまま受け継ぎ、それを背負って生きていかないといけない。だから、クローリアも――」
「やっぱり、そうですか。いえ、わかっていました。ですが、何か方法があるのかと……御免なさい」
クローリアの質問に対しシオンは、特に何かを言うつもりはなかった。
現在の階級に満足していない者は、どのようにすれば階級が上がるのか――そう考えるのは、普通の感覚といっていい。
だからクローリアは何もおかしなことを言っていないと、フォローを加える。
ふと、階級の話である人物を思い出す。
その人物とは外界に赴いた翌日で、朝方の買い物の時にすれ違った。
鮮明に記憶が蘇った瞬間、シオンは何処か間延びした声を上げ、階級を上げることはできないが、上部の階層で生活することができるとひとつの方法があると話す。
「それは?」
「家政婦」
「それは、どのような職業ですか」
「階級が上の者の身の回りの世話をする人だ。選ばれるのは、雇う人物より階級が下であるのが条件」
「で、でしたら……」
シオンの話を聞き、クローリアが何かを訴えかけてくるような視線を向けてくる。
勿論、何を言いたいのかわかっていたが、シオンが彼女の訴えを受け入れることはできない。
だから頭を振り、自分は家政婦を雇う資格があるのかどうかわからないと言い、丁重に断った。
「ですが、シオン様は――」
「B階級の人間とはいえ、こればかりは難しい。雇う方にも多くの条件があって、それを満たさないといけない。だから本当の意味で雇うことができるのは、A階級より上の者だろう」
「……残念です」
「クローリアが望む階級の問題は、このようなことでしか解決できない。今回ばかりは、協力は難しい。期待を持たせるようなことを言って悪かったが、事実を受け止めて欲しかった」
「いえ、話して頂けただけでも……」
落胆するクローリアに追い討ちを掛けたくないと、シオンはそれ以上の言葉を続けることはしなかった。
そもそも、最下層の者が家政婦として選ばれるのだろうか。
それに家政婦として選ばれているのなら、この制度を知っていてもおかしくない。
しかし、クローリアを含め彼女の両親は知らない。