アメット
家政婦として選んで貰える最低のラインがC階級らしく、クローリアや彼女の両親の反応から周囲の者達の最下層に暮らす者達への偏見と軋轢が影響しているといっていい。
それは品がないからか、それとも学がないからか――流石のシオンも、その点はわからなかった。
ふと「学」という単語に、シオンは最下層の学業事情が気になってくる。
A階級とB階級が暮らすエリアでは複数の学校が存在し、自由に学べる場所が可能だ。
だからシオンのように科学者を目指すに当たってレベルの高い学校を選択し、日々勉学に励むことができた。
果たして、最下層は――
シオンは学業の面はどうなっているのか尋ねると、クローリアは両親から最低限の読み書きは学んだと話す。
それは学業に回す金がないというわけではなく、学校そのものが存在していないという。
勿論学校がなければ教師もおらず、クローリアのように両親が教えるしかない。
その他に、大人達が教えてくれるのは生きる上で重要な事柄。
目上の人に対しての敬語や立ち振る舞い。
一般的な常識やマナーなど多岐に渡るが、それらはシオンが暮らす世界では当たり前のことであって、それ以上の高い知識が学べない現状に家政婦が輩出されない理由を悟る。
(これでは……)
家政婦になるにあたって、最低限の知識と教養が必要となってくる。
ましてや仕える身分が高くなればなるほどそれらが必要となり、特に気難しい人間にあたってしまえば機嫌を損ねてしまう。
特にA階級の人間は自意識過剰が多く、少しの粗相も彼等の逆鱗に触れる。
(だから……)
最下層の人間を意図的に選ばないのではなく、選べないのだろう。
このような者達では失礼ながらまともな仕事が行えるとは思えず、それどころか逆に仕事の量を増やしてしまう。
家政婦を雇うのは、一種のステータス。
だからそのステータスの中に、彼等は必要ない。
厳しいが、これが現実。
まさに別世界と呼ぶに相応しい最下層を取り巻く状況に、大気汚染同様に彼等の価値の向上を図った方がいいのではないかとシオンは考えるが、上部の者が手を差し伸べることは滅多にない。
彼等にとってドームの階級は「C」で、終わっている。
「あの……学校とはどのような場所で……」
学業について尋ねた中で、クローリアは「学校」という単語に引っ掛かったらしく、学校の意味を尋ねてくる。
彼女の自宅を訪ねる前から彼女は上部の世界に強い憧れを持っていることは判明していたが、まさかこれほどのものとはシオンは好奇心豊かな彼女が面白かった。