アメット
「多くの者が、知識を得る場所」
「それは、読み書きですか?」
「それを含め、多くを学ぶ」
「シオン様は学校で多くのことを学んでこられたので、科学者になれたというのでしょうか」
「確かに科学者になるには、多くの知識が必要だ。勿論、知識だけではなく応用力も欠かせない」
シオンの話を聞き、クローリアの目が輝く。
元々、何かを学ぶことに関して高い関心を持っているのだろう、彼が語る「学校」に、強い憧れを抱く。
しかし彼女が暮らしているのは、ドームの最下層。
いくら関心や憧れを持っていても、こればかりはどうしようもならない。
そのことに気付いているのは彼女の両親で、娘がシオンにあれこれと質問することで惨めさを覚えないかと心配になり、これ以上の質問は失礼にあたると途中で止めさせてしまう。
両親の意見にクローリアは当初は不満そうであったが、哀れみに似た表情の両親を見て渋々受け入れた。
「今更このようなことを言うのは失礼だと思いますが、何もご用意できずに申し訳ありません」
「いえ、お構いなく。それに何かを出されても、防護マスクを外せない。大気が、違いすぎる」
「ああ、そうでした」
表面上当たり障りのない言葉を返すが、どちらかといえば最下層の物を口に入れたくないというのが彼の本音。
食料に関しては上部からの配給なのでこの場所で生産が行なわれているわけではないが、長い間放置されていればこの汚れた大気を吸収しているかもしれない。
食したと同時に腹を下す確立が高く、それに伴い高熱が出たら洒落にならない。
また、食料同様に水も汚れているだろう。
B階級の者として清潔な食べ物と飲み物を摂取しているシオンにとって彼等が日頃食している物は有毒物質に等しく、善意で口にするものではない。
「クローリア、そろそろ……」
雰囲気的に居づらくなったシオンは、クローリアに本来の仕事に戻ろうと提案する。
彼の言葉で自分達が何をやっていたのか思い出したクローリアは、寄り道し長居をしてしまったことを詫びる。
それに対しシオンは頭を振り「構わない」という意思を示すと、自分が立ち去ることを告げるように彼女の両親に軽く頭を垂れ、何処か急ぎ足で建物の外へ向かう。
その姿にクローリアは彼に置いていかれては一大事と、両親への挨拶をそこそこに慌てて後を追い建物の外で合流する。