アメット
「シ、シオン様」
「悪い。此方も、時間がなくて……」
「いえ、私が我儘を言ってしまいましたので……申し訳ありません。お仕事は、きちんと頑張ります」
「有難う……助かる」
クローリアの健気さに微笑を浮かべると、彼女を引き連れ仕事を再開する。
一通りの地図の修正が完了した後、本来の仕事である最下層の大気調査を行う。
結論からいえば大気の濃度は身体を著しく害するものであって、クローリアの父親の病気もこれが原因と判明する。
特に大気が一番汚染されていたのは、ゴミの焼却施設が存在する一帯。
このような場所で防護マスクも着用せずに仕事を行っていることにシオンは唖然となり、最下層の過酷な労働の一面を知る。
死へ一直線――というのは大袈裟ではなく、事実目の前で繰り広げられている。
(報告はしないといけない。しかし、上が聞き入れてくれるか……彼等は、下の者を見ようとしない)
だからといって、最下層の劣悪な環境を報告しないわけにはいかない。
早急な改善が必要で、このままでは全員が病気に罹ってしまい、最悪全ての人間が数十年後には死亡してしまうだろう。
しかし微かに残されている善意に期待しないといけないが、現在の階級制度の負の部分。
「これで、お仕事は終了でしょうか」
シオンが真剣な表情で考え事をしていると、クローリアが横から心配そうに尋ねてくる。
それに対しシオンは頭を軽く垂れ協力してくれたことに礼を言うと、彼女は可愛らしく笑うと「迷惑にならず、力になれたことが嬉しい」と、話す。
それに上部の話が聞け、勉強になったと付け加える。
「お別れ……ですね」
「用事がない限り、訪れることはない。今回は特別で……次に何かがあっても、俺が来るとは限らない」
「そう……ですか」
「もし違う人が来た時も、こうやって協力して欲しい。中には、気分を害する者もいるかもしれないが」
「わかりました。お約束します」
「有難う。ああ、そうだ――」
ふと、彼女との大事な約束を思い出す。
今回は報酬を支払うということで、大気汚染の調査の他に地図の修正を手伝って貰った。
だからそれ相応の正当な報酬を支払わずに帰宅するのは契約違反になってしまうと、シオンはクローリアにどのように金を支払えばいいか尋ねる。