アメット
「旦那様が作成してくれた口座がありますので、そちらにお願いします。その……本当に宜しいのですか?」
「何が?」
「お金を頂くことです」
「それは、構わない。地図の修正にあたっては、クローリアの助けがなければできなかった」
「ですが、シオン様から多くのことを教えて頂きました。上の階級のことは、普通では聞くことができません。ですので、私にとってはそれで十分で……ですから、頂くわけにはいきません」
「だけど……」
「いえ、本当にいいのです。シオン様が稼がれたお金が、シオン様の生活に使わないといけません」
本来、これは無償で行なうことを約束し引き受けた。
途中でシオンから地図の修正にあたっての報酬と与えると言われて受け入れたが、クローリアは本当に貰っていいのか迷いが生じてしまう。
それにこれについての約束は、両親を含めセルゲイとエイネールは知らない。
父親の病気のことを第一に考え、薬を購入する現金を欲しているのなら受け取ってもいい。
それがあるのに断るということは、最下層に漂う独特の空気がそうさせているのか。
決して施しではないが、大人達はこれを施しと感じ取ってしまうだろう。
それを無意識に感じているからこそ、彼女は断った。
それに報酬を受け取ってしまった場合、後で何を言われるかわからない。
褒められるというより怒られるのではないかという恐怖心が勝り、クローリアはシオンに頭を垂れ報酬を断る。
それに対しシオンは何処か落胆した溜息を付くだけで、何も言うことはしなかった。
「じゃあ、支払いはなしだ」
「……すみません」
「いや、いいよ。断っているのに、無理にというわけにもいかない。さて、これでお別れだ」
「お仕事、頑張って下さい」
「上司に扱き使われながら、頑張るさ。クローリアも無理せずに、父親の病気が治るといいな」
「……はい」
シオンと別れることが辛いのか、クローリアは俯いてしまう。
シオンはそんな子供っぽい一面を見せる彼女の頭を撫でると、元気を出すように促す。
そして「早く報告に行った方がいい」と言うと、シオンは上部と下部を繋ぐエレベーターが設置されている場所へ向かった。