アメット
クローリアが、エレベーターが設置されている建物の中へ立ち入ったことがあるかどうかわからないが、あの場所は彼女が立ち入っていい場所ではない。
突き付けられるのが最下層の住人であるという現実と、自分達はどのように足掻いたところで上部に行くことができない事実。
シオンは己の生体データを設置されている機械に読み込ませ通行の許可を得ると、エレベーターを操作し乗降する。
そして音を鳴らしドアが閉められると、室内の空気の洗浄が行なわれた。
そして洗浄が終了したことを確認すると徐に防護マスクを外し、綺麗な空気を肺に吸い込む。
しかし完全に洗浄しきれていなかったのか、多少の煙たさが感じられた。
だからといって肺に多大なる影響を与えるほどではなく、それに最下層の汚れきった大気に比べれば何倍もいい。
同時に、どれだけ汚い空気を最下層の住人が吸い込んでいるのか、嫌でも理解する。
(……疲れた)
それが、シオンの正直な感想であった。
肉体的な疲労もそうであるが、精神面の疲労も著しい。
だからといって全ての面で悲観しているわけではなく、クローリアに出会えたことはシオンにとって大きかった。
好奇心が豊かで、上部の生活に憧れを抱き夢を持っていた。
だが、どれだけ夢や憧れを抱いていたところで、最下層の住人が上部に行くことはできない。
下部の人間が上部に行く唯一の方法である「家政婦」も最下層の住民には適応されず、どのように足掻いたところで最下層の住人は最下層で暮らし、一生を負えないといけない。
面白い人物だったので、もう一度会ってみたい。
そのような感情を抱くが、それには再び最下層へ行かないといけない。
上部の人間であっても、好き勝手に行くことのできない階層。
別世界の名前に相応しい場所は近くて遠く、それでいて人間が人間らしく生きている場所。
いつか、また――
現実的に可能かどうかわからない思いを胸に秘め、シオンはエレベーターでドームの上部へ向かい続ける。
最下層で得た大気情報と、クローリアと共に更新した地図を持って――
◇◆◇◆◇◆
シオンが自身が暮らす階層に到着したと同時に待っていたのは、数人の科学者だった。
誰もが見慣れた連中で、中には気さくに「お疲れ様」と、声をかけてくる者もいた。
だからといって彼等は馴れ合いに来たわけではなく、シオンもどうして彼等がいるのか理由はわかっていた。