アメット
今までシオンは、汚れ切った最下層の大気の中で行動していた。
それにより汚い大気が衣服だけではなく身体に染み付いているのではないかと彼等は危惧しているらしく、時間を掛けて徹底的に洗浄を行なうだろう。
それは最初からわかり切っているので、反論は野暮。
だからシオンは納得した表情を浮かべ、彼等の意思に従う。
しかしだからといって洗浄に慣れているわけではなく、シオンは洗浄を嫌っている多くの科学者の一人なので内心は複雑そのもの。
できるものなら早く済ませて欲しいものだが、こればかりは仕方がなかった。
「データは?」
「これだよ」
「後で、解析しておく」
「で、これは最下層の地図が納められている。何年前のデータかわからないが、全く使い物にならなかった。で、仕事のついでに地図の更新しておいた。まあ、使うかわからないけど」
「最下層の情報としては、ないよりあった方がいい。また最下層の調査となった時に、利用させてもらうよ」
「次は、勘弁願うよ」
「その時は、じゃんけんだ」
「別の方法を頼むよ」
仲間に向かってそのように本音を漏らすが、シオンはそれが自分の本心かどうかわからないでいた。
最下層へ行けばクローリアに会うことができるが、だからといって最下層へ行くことに躊躇いの方が大きい。
矛盾している自分の感情に、シオンはクスっと笑ってしまう。
「どうした?」
「疲れた」
「最下層の者に、文句を言われたか。あの場所に暮らす者達は、いいイメージがないからな」
「まあ、それもあるけど……もっと別の……いや、大気が俺の身体に合わなかったのだろう」
「防護マスクは?」
「着用していた。していたが、大気濃度の悪さは著しい。外していたら、病気になっていた」
シオンの感想に、誰もが互いの顔を見合す。
最下層の大気の悪さは耳にしていたが、それほど汚いものだと彼の話で知り、げんなりとした表情を作る。
そして口々に発せられるのは、二度と最下層の調査が行なわれないでほしいというもの。
それに、行われても行きたくないという本音。