アメット

「お前は、頑張った」

「褒めてくれるのか?」

「これを褒めないで、どうする。誰もが、シオンが最下層に食われるんじゃないかって、心配していた」

「そう、二度と戻って来ないって」

「最悪、死体となって戻って来るんじゃないかって心配していた。まあ、無事に帰還して何より」

 仲間達の大袈裟すぎる言い方に、シオンは苦笑しつつ頭を振ると「そのようなことはなかった」と、言い返す。

 彼等が言う「最下層に食われる」というのはどのような定義を示しているかわからないが、それどころか最下層の住人は気さくで気持ちがいい人物が多かった。

 ただ一部の者が敬語を用いることはしないが、それはそれで特に問題はない。

 しかし目の前に者達に真実を話したところで、信用してくれるかどうかは怪しい。

 言葉を悪くすれば「最下層の大気によって、脳味噌がやられてしまい正常な思考ができなくなった」と、言われるのが落ち。

 それに、肩を持ったと冷ややかな視線を向けられるのも厄介。

 だから彼等がそのように心配してくれたことに対しては素直に感謝するも、それ以上のことは何も言うことはしなかった。

 最下層の真の姿についてあれこれと語り合うとしたら、同じ意見を持つアイザック以外考えられない。

 ふと、友人の姿が見えないことに「彼は一緒ではないのか?」と、尋ねていた。

「あいつは、仕事だ」

「仕事?」

「お前が無事に帰還したことを確認したいと言っていたが、あいつはあいつで仕事があるんだ」

「……残念」

「洗浄が終わったら、話せばいいさ」

「……だな」

「で、いつもの――」

「わかっている」

「まあ、少しの辛抱だ」

「ああ、気が重い」

 シオンの読みの通り、彼等は洗浄をする気満々だった。

 そもそもこの状態で通してくれる方がおかしく、何もしないのは怠慢といっていい。

 シオンは洗浄を好ましいものとは思っていないが、これをやらないと後々で面倒になってしまうので行わないわけにはいかない。

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