アメット
「何か、いいことがあったのか?」
「うん?」
「笑っている」
「そうか?」
「いい見返りがあったとか?」
「違う。最下層で、面白い人物に出会った。その者は上の世界に憧れていて、色々と質問をしてきた」
滅多に特定の誰かに興味を示さないシオンが、最下層で出会った人物に興味を示している。
それに何か面白いものが隠されているのではないかと勘繰ったアイザックは、その人物について根掘り葉掘り聞き出そうとするが、その前にシオンの方から素直に話しはじめる。
「彼女の名前は、クローリア。年齢は……17だったかな。勉学がままならない最下層の中では、優秀だと思う」
「どうしてそう思う?」
「物覚えがいいというか、彼女にきちんと教育を施すことができれば立派に成長するだろう」
「可愛いのか?」
「薄汚れていたけど……」
だが、言葉は最後まで発せられることはなかった。
シオンはアイザックの質問の意図に気付いたのだろう、途中で言葉を止めると反射的に友人を睨んでしまう。
すると意図に気付かれてしまったことにアイザックは何処か残念そうな表情を作るも、白々しい態度を取る。
「興味があるのか」
「何故、そうなる」
「そうやって覚えているということは、相手に興味があるって証拠だ。だけど、最下層に……か」
「どうした?」
「いや、最下層にも優秀と取れる人物があるのかって考えただけだ。思ったよりドーム内の人材は、豊富なんじゃないのか。かき集めている範囲が、狭すぎるだけってのもあるが……」
「階級制度の弊害……ってやつかもしれない。教育を施さないばかりに、人材を失っている」
シオンの意見に納得するところがあるのだろう、アイザックが同調するように頷き返す。
シオンの意見の通り階級制度に関係なく一定水準の教育を施せば、その中から予想外の人物が誕生するかもしれない。
また、その者が現状を打開するいい方法を編み出す場合もある。