アメット
それを阻むのが、現状の階級制度。
みすみす人材を潰してまで自分達の地位に固執していることに、シオンとアイザックは同時に溜息を付く。
クローリアのことについて話していたら、いつの間にか暗い話になってしまった。
その気分を変えようと、シオンが話題を逸らす。
「最下層の住人だけど……」
「何か、されたか?」
「そんなことはない。クローリアの件のように、結構気さくな連中ばかりだったよ。敬語を用いる者は、殆んど見受けられなかったけど……といって、敬語を使って欲しいわけじゃない」
「それは、わかっている。お前が、相手に敬語を求めるほど小さい人間じゃないことぐらい」
「で、調査に協力してくれ……こう言うと弊害が出そうだが、上部に暮らしている奴等よりいい」
「一度、会ってみたいな」
「最下層に行くか?」
「問題は、それなんだ」
アイザックは、気のいい連中とシオンが絶賛する最下層の住人に会ってみたいと思う反面、自ら最下層へ赴く勇気がなかなか湧いてこない。
ドームの中で大気汚染が一番酷いとされている場所においそれと出掛けられるわけがなく、何より行く為には手続きをしないといけない。
シオン同様に、アイザックも自分の健康面を第一に考えてしまうので、なかなか行動に移すことができない。
それ以前に好き勝手に訪れることのできない場所なので、最下層を訪れ住民と交流してきたシオンにあれこれと質問をぶつけ、それにより湧き出した好奇心を満足させようとする。
「で、友達になったのか?」
「友達にはなっていない。なったところで、これから会いに行けるわけじゃない。多分、これで最後だ……」
「残念」
「ああ、残念だ」
「寂しいのか?」
「どうだろう? 珍しい人物に会ったから、そう思っているのかもしれない。だから、一次的な感情か……」
言葉で否定していても、やはり感情が伴いでいた。
彼女は自分にとって、一体何なのだろうか――しかし、考えたところで自分を納得させるだけの言葉が見付からない。
珍しい人物。現在の階層にはいない人物。
それが新鮮に映ったので、彼女が引っ掛かる――と、無理に自己完結する。