アメット

 あらゆる階層から排出される、全てのゴミを最下層に集約させ毎日のように焼却しているのだから、空気が汚れるのは必至。

 それにドームは閉鎖空間なので空気を浄化させる機械が階層ごとに設置されているのだが、調査を依頼している時点で正常に機能しているわけがない。

 人間が生活し日々飲み食いをしているのだからゴミが出るのは当たり前だが、流石のアイザックもゴミの行き先まで考えない。

 特定の誰かがゴミを回収してくれ、何処かに運んでくれている。

 それが当たり前となっているのだから、ゴミの行き先を真面目に考える者はいない。

「それが、唯一の現金収入と言っていた。現金収入があるから、上部から物を取り寄せているようだが……」

「できるのか?」

「ああ。彼女の……クローリアの父親が病気らしく、薬を取り寄せていると言っていた。ただ、高額らしい」

「医者は?」

「いない」

「科学者同様、医者も相当のプライドの塊らしいからな。好き好んで、下の階層へ行きたがらないか……」

「彼女の父親の病気は、汚染が原因だろう」

「話を聞いていると、その施設も相当のボロに違いない。本来であったら有害物質が外へ出ないように設計されるだろうが、長年の酷使か何かでその機能も止まってしまったか……」

 本来であったら修繕が行われていいものだが、場所が場所なだけに誰も行きたがらない。

 最下層の住人が施設の修繕を行う能力を持っているかどうか怪しく、それ以前に必要な道具が揃うかどうかわからない。

 焼却をする機能だけが動いているので、使い続けるしかない。

 彼等にこれを行わなければ現金を手に入れられず、最低限の生活もままならなくなってしまう。

 それでも汚れた大気に限界と不満を感じるようになったのだろう、だから上部の者に大気調査を依頼する。

 全部だけではなく、一部分だけでも改善されることを願って――

「酷いな」

「何も知らなかった」

「それは、お互い……な」

 今回、調査依頼がなければ最下層の現状を知ることはなかった。

 ただ存在するというくらいの認識だけで、ドーム全体を縛り付けている階級制度に不満を抱いていただけであっただろう。

 しかし問題は思った以上に複雑で、階級制度の弊害という生易しい言葉では片付けられなくなった。

< 72 / 298 >

この作品をシェア

pagetop