アメット

 シオンの説明に納得したのか、アイザックはジュースを購入することにした。

 彼が購入に迷っていた飲み物は、一般的に「オレンジ」と呼ばれている果物の果汁を使用して作られているが、全体的に果汁の割合は多い方ではない。

 しかしこれはこれで、好評の飲み物だったりする。

「美味いか?」

「味が濃い」

「濃度の変化か?」

「いや、そういうのは書かれていない」

「じゃあ、生産方法を変えたんじゃないか? 味に変化を付けようと、人工的に作った成分の投与とか」

「投与って、お前……」

「いつもの癖だ」

「しかし、果物って高いよな」

「贈答品だから、仕方ないさ」

 ドーム内で栽培されている果物の量は野菜と違い、圧倒的に少ない。

 主な理由は果物自体がデリケートということの他に、収穫までの時間が長いということ。

 だから加工品に回される量も必然的に制限されてしまい、大多数が贈答品として取引されるのが現状であった。

 昨今、栽培技術の向上と品質管理の生産数が増えてきているが、それでも高級品には変わらず、相変わらず高い値段で取引されている。

 シオンとアイザックの給料で購入できないわけではないが、果物を購入するだけの金があるのなら生活資金に回した方がいいというのが本音だ。

「デリケートな果物は、相変わらず難しいと聞く。外界と違い天候に左右されないからいいと思ったが、人工栽培もそれはそれで楽じゃないらしい。現に、一部が汚染されたからな」

「で、汚染の原因は?」

「浄化システムの故障とか」

「……なるほど」

 返された言葉は、冷静そのもの。自分達が使っている機械は多くの恩恵を齎してくれるが、だからといってトラブル無しにスムーズに働いてくれるわけでもない。

 特にドームという閉鎖空間で暮らしているのでどうしてもシステムに負荷が掛かってしまい、結果として故障に繋がる。

 故障したら修理を行い、それを再び利用する。

 それで現代の生活を保ち続けているが、外界で暮らしていた時とは違い、一箇所に留まり続けるのもこれはこれで苦労が後を絶たない。

 だからこそ早く浄化プロジェクトを成功させないといけないと、シオンとアイザックは考える。

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