アメット
「普通に売っているな」
「果物?」
「買うのは、金持ちか」
「そうじゃないか」
「上位階級の特権か」
「特権というか、腐るほど金を持っている。それにこの階層には、A階級の人間も暮らしている。彼等が買う物も用意しておかないと。そのひとつが、高級の代名詞である果物なんだろう」
アイザックは一瞬「なるほど」と、同調するかのように頷き返す。
A階級の人間が暮らしているからこそ、店にいい代物が並ぶ。
別にB階級の人間の生活面を第一に考えているわけではなく、要はA階級の人間が快適に暮らせるかどうか――
という問題だと、シオンは続ける。
言い方を悪くすれば、彼等のおこぼれの中で自分達は生活している。
しかしその状態を悪く言う者は滅多におらず、それがおこぼれによって成り立っているものであっても、それ相応の快適な生活を送っているので、これはこれで満足していると普通に受け入れている。
「その代わり、結構こき使われている。これくらいの仕事もできないのかって、思うこともある」
「辛いな」
「今回の件も、そうじゃないか」
「上の手柄にされる……ってやつか。外界への調査の件も、多分上の手柄になっているだろう」
「いいご身分ってやつだ。部下の功績は自分の功績……というのが、上の者の考えだったりする。どのような方法で出世をしたのか、多分A階級の人間だからと特別扱いされているのか」
「命令は上手いよ」
「だな」
「変な部分には、長けているよ」
報われない現状を嘆くかのように言葉を漏らすと、シオンは砂糖入りのコーヒーを口に含む。
真面目に仕事を行なっていても、彼等はなかなか出世の機会に恵まれない。
そして上手く出生街道を驀進しているのは、これまた上手く上司に取り入りおべっかを使っている者といっていい。
本来、このような世界は実力主義とされているが、何かが間違っていた。
だからといって裏で賄賂のやり取りが行われているわけではないので、そのあたりは一応正常なのだと二人は見ている。
それでも現在の状況に不満がないといったら、嘘になってしまい出世の道は程遠い。