アメット
「お前が上司だったらいいな」
「どうして」
「上に立つようなことがあれば、下の者には優しく接する。最下層での差別は、しなかっただろう」
「差別は……していないよ。ただ、クローリアの両親が何か出してくれると言ったが断った」
「それは……」
「口にしたくなかったというのが、本当の理由だよ。大気汚染が酷い場所の物を口に入れたら、確実に病気になってしまう。それに見ぬからに汚くて……なんというか、泥水のようなそういうものだった。あれを普通に飲んでいるとは、だから身体を悪くしてしまうんだ」
正直に語るシオンに、アイザックはそれについては仕方がないことだと伝える。
そもそも互いに暮らしている環境が異なり、それぞれ環境に適した身体を持っている。
この階層のように空気が浄化された中で生きているのだから、汚い場所へ行けば拒否するのは当たり前。
逆に馬鹿正直に出された物を口にして、病気になった方が一大事。
それこそ相手側にいらぬ心配をさせ、毒物を提供したとあらぬ疑いを掛けられ最下層の立場を悪くしてしまう。
だから口にしなかったことは賢明の判断だったと、シオンを納得させるようにアイザックは話す。
「そういう見方もできないわけじゃないが、本心では拒絶していたよ。なんだかんだで、彼等を――」
「お前は、聖人君子か?」
「……違う」
「なら、それでいいじゃないか。全てを正しい方向で見られるわけじゃないし、理想とする方向を選べるわけじゃない。それに言ったように、お前が拒否したことにより大事に発展はしなかった。それはそれで、お前が気にしているクローリアって子に迷惑が掛かるんじゃないか」
「……思想家にでもなったのか?」
「いやー、お前が悩んでいるからついつい柄にでもないことを……って、いいじゃないか別に」
「顔が赤い」
「シオンが悪い」
動揺を隠し切れないアイザックはあたふたしながら、言い訳を繰り返す。
だが、その言い訳は泥沼へと彼を導いていき、更に状況を悪い方法へ連れて行く。
珍しい慌てっぷりにシオンは意地悪っぽく笑うが、心の片隅ではクローリアのことが引っ掛かって仕方がなかった。