アメット

「悪い、起こした」

「いや、いいさ。この体勢では、熟睡は無理だし」

「凄い角度で寝ていた」

「お陰で、首が痛い」

「おかしな体勢で寝ていると、身体に悪いと聞くから気をつけた方がいい。病院行きは面倒だ」

「わかっている」

 勿論、シオンに言われなくともこの体勢が身体に相当の負荷をかけていることは理解しているが、この体勢でしか眠ることができない。

 中には堂々と床の上で寝ている者もいるが、流石に通路で寝られると邪魔。

 また、運悪く身体を踏まれても、これはこれで文句は言えない。

 安全を図ってそれなりの睡眠を取るとなったら、先程の体勢で我慢しないといけないのだが、首に走る痛みは簡単に我慢できるものではない。

 これならディスクにうつ伏して寝ていた方が幾分マシだったのではないかと後悔するも、それは完全に後も祭りといっていい。

「で、腹が減っているのか?」

「昼から食っていない」

「なら、食うか?」

「いいのか?」

「余り物だ」

「それでもいい」

 相手が差し出したのは、四角い箱に入っている携帯用の食料。

 このひと箱で一食分の栄養素の何パーセントを――という便利な食べ物で、仕事が忙しい科学者の必需品となっている。

 昔に比べて味は改善されているが、好き好んで食べる代物ではなくあくまでも代用品に過ぎない。

 それでも胃袋が空腹を訴えているシオンにとっては十分の代物で、感謝の言葉と共に箱の中から中身を取り出し食す。

 すると黙々と食べ続けているシオンの姿に視線を合わせつつ、相手が口を開く。

 発した言葉というのは、上の面々が慌しく動いているというものだった。

「トラブルか?」

「いや、違うらしい。所謂、あの時期だ」

「あの時期?」

 一瞬、何を言っているのか理解できなかったが、ひとつだけ相手の言葉に当て嵌まる出来事を思い出す。

 統治者の変更――それが近々、行なわれるのだ。

 三つの一族それぞれがドームを統治しているが、その任期は四年。

 そして今年、新しい一族がドームを統治していく。

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