アメット

「突然だけど、家政婦って便利なのかな?」

「雇えるのか?」

「その権利は、持っていない。ただ、家政婦と道端ですれ違ったことがあって、便利なのかな? そう、思った」

 しかし聞いている相手もシオンと同じB階級の人間なので、家政婦のことに関しての情報は持ち合わせていない。

 それに友人知人にも家政婦を雇っている人物がいないので、完全に独自の見解による意見となってしまうと言われるが、シオンはそれでもいいと相手の考えを求める。

「便利じゃないか」

「やっぱり」

「全部、やってくれるんだろう?」

「確か、そう」

「なら、便利じゃないか。特に互いに一人暮らしだ、楽だぞー。それに帰宅すれば、飯が用意されている」

 料理を苦手としている男にとって、温かい飯が用意されていることは何よりも嬉しく最高だった。

 どうしても一人暮らしの男の食事はわびしい物になってしまい、シオン外食で済ますことが多い。

 これでは身体に悪いとわかっているが、だからといって台所に立つ気分になれない。

 相手もシオンと同等の意見を持っているのだろう、語られる話に何度も頷き返す。

 また外食に行くだけの体力が残されていない時は、シオンに余り物として渡した食べ物と飲み物を胃袋に入れ寝てしまうという。

 流石にそこまで生活が酷くないシオンは、呆れるしかない。

「健康診断に行け」

「シオンは?」

「い、行く」

「何、動揺している」

「以前の健康診断で、いい数値が出なかった」

「引っ掛かったのか?」

「いや、そこまで酷くはなかったけど……注意した方がいいと言われた。流石に、今回は危ないな」

「やっぱり、誰かに面倒を見て貰うしかないのか。シオンが言う家政婦……わかるな、気持ち」

 シオンが何故、急に「家政婦」の名前を持ち出したのか、その意味を察したのだろう盛大な溜息が漏れる。

 多く存在する職業の中で、科学者は忙しい仕事に分類される。

 休暇は滅多に取れず、研究所での泊り込みは日常茶飯事。

 その中で誰かに家事を担ってもらうのは、一種の憧れに近い。

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