アメット
それなら彼女を作って同棲し家事を担って貰えばいいのだが、快く引き受けてくれるかどうか怪しい。
運良く料理が上手い人物にあたればいいか、料理下手や口煩い人物にあたったら最悪。
そして何より、仕事が忙しいので彼女を作る暇がないというのが、現実だった。
同僚の中には両親と同居し、母親に料理を作って貰っている者もいるらしいが、決してマザコンというわけではない。
その方が便利で定期的に栄養バランスが整えられた料理を食べられる利点を考えて同棲しているのだが、周囲から「マザコン」と、呼ばれていたりもする。
「もし、雇えたら誰がいい?」
「誰って?」
「女か、男か……個人的に、若い女がいい。やっぱり、若い女に作って貰った飯の方が美味い」
「……如何わしい」
「そんなことを言うが、若い女の方がいいだろう。背が高くてスタイルが良くて、美人で……」
語られる内容は料理が上手い下手に関係なく、完全に趣味の領域といっていい。
しかし若い健康な男であれば、あれこれと相手に理想を抱くのは普通だが、いささか数が多すぎる。
シオンは語られる理想を苦笑しながら聞いていたが、途中で面倒になったのか口を挟む。
「で、そういう相手はいるのか?」
「残念ながら、いない」
「ちょっと、理想が多い」
「そ、そうか。他の奴にも、そう言われたことがある。あと、ひとつかふたつ諦めた方がいいかな」
「それがいいよ。あまり理想ばかり追いかけていると、いい相手を逃して……って、人のことは言えないけど」
恋愛についてあれこれと語っているが、シオン本人恋愛経験は殆んどない。
科学者を目指す為に勉強に明け暮れていたので、恋愛を行なう経験がなかったといった方が正しい。
だからといって誰かを愛し愛されることを拒んでいるわけではなく、要はいい相手がいない。
「で、シオンは?」
「料理が上手い人がいい」
シオンは相手に容姿などを求めることはせず、ひとつ「料理が上手い」を重点に置きたい。
美味しい料理を食べれば仕事の疲れも吹き飛び、張り合いも出る。
互いに家政婦を雇えるかどうか怪しい状況であったが、語られる理想は大きく和気藹々と続けられるのであった。