アメット
「食べ物の話をしていたら、腹が減った」
「食べたんじゃないのか?」
「食べたことは食べたが……やっぱり、腹が減った。どうだ? 今から、何か食いに行くか」
「いいのか?」
「お前も、それだけじゃ足りないだろう?」
確かに、携帯用食料じゃ物足りない。
空腹の足しにはなったが、数十分後には再び胃袋が空腹を訴えてくるだろう。
それを避けるにはきちんとした食事を取り、胃袋を満足させないといけない。
シオンは相手の誘いに頷き快く受け入れると、共に食事に行くことにした。
◇◆◇◆◇◆
食事を終え、研究所に戻って来たシオン。
彼は静寂が覆う薄暗い廊下に佇み、誰かに電話を掛けていた。
いや、正しくは電話が掛かってきたので出たといった方がいい。
交わされる言葉は真剣そのもので、声音が低い。
また、シオンの顔から表情が消え何度か嘆息が漏れる。
「……そうか」
シオンを抜いて何かが決定してしまったのか、当初これについて異論を唱えていたが、自分の意見が受け入れられないことが判明した途端、素直に折れることにした。
それでもこれについて「嫌だ」という気持ちが消えたわけではないので、シオンは思わず頭皮を掻く。
「いつ?」
それについて齎された解答は、四日後というもの。
急遽決定した事柄に、シオンは嘆息ではなく盛大な溜息を付く。
仕事上、滅多に――というか、好き勝手に有休が取り難い。
有休を申請すればいい表情をしてもらえず、最悪日頃の鬱憤解消とばかりに毒を吐かれてしまう。
「場合によっては、其方に行けないかもしれない。今、仕事が忙しい。だから、有休は……」
其方に行きたくないという心情が強い為か、シオンはいい訳を繰り返す。
だが、これは相手が言っているように決定事項なので、参加は強制的といっていい。
しかし、シオンは乗り気ではない。
すると相手側もシオンの心情に気付いているのか、同情に似た言葉を返してくる。
その言葉を聞いていると、シオンは何だか悪いことを言い続けているのではないかと心が痛み出す。
暫くの沈黙の後、我儘を言い続けたが素直に行くことを相手に告げ、迎えを頼むのだった。