アメット
第三章 統治者
四日後。
シオンにとって、運命の日が訪れる。
ドーム全体がまだ本格的に活動していない時刻、シオンは約束の場所へ向かって歩いていた。
気分はどちらかといえば重く、これから待ち受けている出来事を思えば頭が痛い。
しかし交わした約束を果さないといけず、それに今回は自分勝手に振舞える状況ではなかった。
もし敵前逃亡を行えば、迷惑を被るのはシオンの父親。
同時に尾鰭が付いた悪い噂が流れ、立場が著しく悪くなってしまう。
だから心の中で拒絶しようが、今回だけは絶対に行かないといけない。
何より科学者として生きている時点で、父親に迷惑を掛けているのだから。
待ち受けている状況を考えながら歩いていると、いつの間にか目的の場所へ到着する。
その一体は中心部の華やかさは感じられず、周囲を見上げれば高い建物が目立つ。
ドームの一番端であるこの体は「場末」という言葉が似合い、訪れる者も滅多にいない薄汚れた場所。
「お待ちしていました」
周囲の状況を確認していると、男の声音がシオンの耳に届く。
それに続いて彼の目の前に姿を現したのは、五十代後半の茶色の髪に白髪が混じった初老の男。
執事の身形をしている男はシオンの前に立つと恭しい態度で頭を垂れ、彼が約束を守ってくれたことに感謝する。
「今回は、仕方がないよ」
「そう仰って頂けると……」
「父さんは、何と?」
「旦那様も、喜ばれておりました。久し振りにシオン様に会えることが、嬉しいのでしょう」
「滅多に、帰らなかったからね」
父親を安心させたいというのなら、定期的に顔を見せないといけない。
しかし帰らない理由は多岐に渡り、結局このような機会がないとシオンは父親に元気な姿を見せることはない。
シオンは肩を竦め眼鏡を取ると、自分が置かれている立場を改めて認識するのだった。
「立ち話もいいけど、行こうか。この現場を見られると、後で厄介なことになってしまうし」
シオンの言葉に、初老の男――アムル・ハーゼンが再び恭しく頭を垂れると、後方で広がっている闇の中へ進むように促す。
アムルの指示にシオンは頷くと、脚を進め闇の中へ立ち入る。
誰も、今のやり取りを聞いていない――そのことを確認した後、アムルも後に続く。