アメット
「……努力する」
「期待している。で、どうする?」
「家政婦?」
「そうだ」
「確かにアムルに頼めば、心配ないけど……」
「なら、構わないな」
権力を使って裏工作をすることに躊躇いがないわけではないが、階級を偽っている時点で裏工作を否定できない。
それに家政婦を雇いたいのも本音で、雇うとしたら最下層で出会ったクローリアが最適だろう。
知り合い同士雇い易く、何より物分りがいい素直な子だった。
シオンは家政婦の件に対し、父親に頼む。
息子の頼みにグレイは頷くと、後でアムルに何とかして貰っておくと話す。
これで家政婦を雇うに関しては、問題ないだろう。
しかしこれで安堵感を覚えることはなく、それ以上にこれから先に待っていることに気分が重くなる。
特に――
だが、それについてシオンは考えることは止める。
考えたところでどうにかなる問題ではなく、一方的に相手が迫ってくる。
それにグレイの息子ということで、嫌でも目立ってしまう。
シオンは身体に溜まった重苦しい空気を吐き出すように溜息を付くと、項垂れるしかできなかった。
◇◆◇◆◇◆
視線が、注目する。
そして、彼等がざわめく。
彼等の言動にシオンは表情を崩さず、心の中で溜息を付く。
「やはり」というか「なるほど」というか、実にわかり易い態度にシオンは呆れる。
特に若い女達の黄色い悲鳴が響き渡り、耳障りだった。
雰囲気で息子の心情を理解したグレイは「我慢しろ」と、言うしかできない。
シオンはグレイが言ったように、結婚適齢の年齢だ。
それに普段は正体が判明しないようにと、髪を乱し伊達眼鏡を掛けているが、きちんと身嗜みを整えタキシードを着れば、容姿端麗の好青年に変化する。
また金と権力がついているのだから、女達が熱を上げるのも納得できる。
滅多にパーティーに顔を出さないシオンが顔を出したというのだから、女達が必死になってしまう。今日を逃したら、次はいつになってしまうのか――
その思いが彼女達を動かし、必死に自分をアピールしようとするが、グレイの話がはじまるのでグッと堪えるしかない。