アメット

 女同士の争いほど醜いものはないというが、その争いの中に私情が混じると更におぞましいものへ変化する。

 いまだに続いている彼女達の争いに誘われるかのように、周囲にいた者達の視線が集中する。

 中には小声で囁き合い、折角のパーティーを台無しにするかと批判していく。

 それを知ってか知らずか、それとも耳に届いていないのか――言い争いは熱を帯び、とうとう退場を言い渡される。

 今度はそれについて不満を抱いたのか、相手が悪いと擦り付け合い泥沼状態と化す。

 階級が高くても、精神面がそれに比例しているわけではない。

 それがまざまざとわかる事件だった。

 シオンはパーティーが開かれている会場の隅に逃げると、置かれている椅子に腰掛けることにした。

 すると赤いドレスが印象的な一人の女性が、シオンの側にやって来る。

 一見真面目そうに見えなくもなかったが、やはり根っこの部分は同じで、愛想を振り撒いてくる。

 その女の態度は、一言で言えば大胆そのもの。

 先程の女性達の方が可愛く見えるほど、彼女の自分自身の売り方は常識を逸脱していた。

 彼女は羞恥心を持ち合わせていないのか、何の躊躇いもなくシオンの太股の上に乗ると、白く細い指で頬を撫でながら満面の笑みを浮かべる。

「今日のご予定は?」

「聞いてどうする」

「お暇でしたら、何処かへ」

「二人で?」

「はい」

「何を望んでいる」

「何も望んではいませんわ」

 勿論、彼女が嘘を付いているのは瞬時にわかる。

 何も望んでいないのなら、このように太股の上に乗ることなどしない。

 何かを期待しているからこそこのような大胆な行動を取り、色っぽい声音を出す。

 特に赤いドレスは妖艶さを漂わせ、デコルテと豊満の胸が目立つ。

 女は最終手段とばかりに自身の胸元を広げ、胸を見せ付けようとするが、寸前でシオンに制される。

 先程の女も嫌っているが、このように安易に身体を売ろうとしている女も嫌い。

 どうせ肉体を武器にたらし込もうとしているのだろう、本音がわかると抱くのは嫌悪感のみ。

 シオンは女までひらひらと手を振り太股から降りるように促すが、なかなか降りてはくれない。

 相手もシオンをたらし込むのに必死になっているのか、両腕で身体を抱き締めようとするが、これまた寸前で制されてしまう。

 何をやろうとしても上手くいかずそれどころか裏目に出る状況に、女は不満たっぷりの表情を作ると、どうして拒絶するのか尋ねてきた。


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