アメット

「理由?」

「理由を聞かなければ、降りませんわ」

「……鬱陶しい女は嫌い」

 鬱陶しいと言われたことに多少の自覚があったのか、相手は反射的に視線を逸らす。

 その反応からシオンは、自分の考えが正しかったことに気付く。

 そして相手の本心がわかれば徹底的に嫌味を言い放ち、また好意を抱いていない相手に優しくできるほど器用ではない。

「また、すぐに身体を売る女も嫌い。女はもっと、淑やかな方がいい。それに、慎ましやかで……」

 流石に今の言葉が効いたのか、女は渋々ながらシオンの太股から降りる。

 それにこれ以上粘ってもいい成果は出ず、それどころか悪い印象を与えると彼女も理解したらしい。

 それども諦められない気持ちが強いのだろう、何処か物欲しそうな視線をシオンに向け続けた。

 シオンは腰掛けていた椅子から腰を上げると、太股を態とらしく彼女の目の前で叩いてみせる。

 この行為によって明確になるのは、シオンが相手に好意を抱いておらず、それどころか嫌悪感を抱いているというもの。

 好かれていないことに女は目元に涙を浮かべるが、グッと堪える。

 彼女の姿に、シオンは罪悪感を抱くことはない。

 それどころかこの涙自体、嘘の涙なのではないかと考えてしまう。特に自分の都合で物事を考えている彼女達を見ていると、尚更である。

 だからシオンは無表情で彼女の前から立ち去ると、途中で誰かに呼び止められてしまう。

「珍しい」

「何?」

「声を掛けてはいけないか?」

「用件による」

「相変わらず、口が悪い」

「……別に」

「ついでに、態度も悪い」

 シオンの言動の全てが気に入らないのか、相手はフンっと鼻を鳴らし視線を逸らす。

 その者は二十代前半の男で、名前はアーク・アンバード。

 三つある統治者のひとつ〈アンバード家〉の御曹司だ。

 シオン同様に整った顔立ちをしているが、口許は皮肉っぽく曲がっている。

 アークは嫌味っぽく長く伸ばしている茶色の前髪を掻き揚げると、何の気紛れでこのパーティーに参加しているのか尋ねる。

 勿論、アークも彼が参加している理由はわかっている。

 わかっていながらそのように尋ねるのは、シオンと比べられることを嫌っているからだ。


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