アメット

「今回、父が統治者になる」

「ああ、そうだったね」

「お前こそ、嫌味な言い方だ」

「別に、忘れていたわけじゃない。三つの一族が交互に統治していると、順番を間違えてしまう」

「三つしかないのに間違えるとは、耄碌しているんじゃないか。お前はまだ、二十代じゃないか」

 嫌味に対し、嫌味を返すのはお約束といっていい。

 またアイザックと共に嫌味を訓練しているので、実にキレがいい。

 まさかこれほどまでの嫌味が返されると予想していなかったのだろう、アークの顔が引き攣る。

 そして相手の表情を見逃さなかったシオンは、更に攻撃していく。

「今、耄碌していると先が困る」

「し、していない」

「耄碌していないというのなら、順番を間違えないんじゃないか。間違えるというのなら……」

「煩い」

 シオンの嫌味に対し返す言葉が見付からなかったのか、アークは沈黙を続ける。

 それでも負けたくない気持ちは前面に出ているのだろう、敵意だけは剥き出しにしていた。

 互いの間に漂う、何とも重苦しい空気。

 しかしそれは一瞬の出来事で、アークの周囲に女達が集まりだす。

 その中には、先程シオンに声を掛けていた者もいた。

 何と、逞しいものか。

 シオンが予想していたように、容姿端麗で尚且つ金と権力を持っている異性なら誰でもいいということだろう、彼女達はシオンに見せたと同等の振る舞いを見せ、懸命にアークの気持ちを惹きつけようとする。

「捜しましたわ」

「お会いできなくて、寂しかったです」

「今日こそ、一緒に……」

「ああ、かっこいいです」

 口が悪くても、アークは見た目が良くアンバード家の御曹司。

 女達が尻尾を振るには十分すぎ、またシオンと違いアークはどのような女にも優しく対応する。

 だからある意味彼はシオンより人気が高く、熱の上げ方も半端ない。

 またモテる最大の理由は、彼の甘い言葉か。

 女達を相手にしだしたアークを置いていくかたちで、シオンはそそくさと立ち去っていく。

 その途中、別の複数の異性から声を掛けられるが、シオンは全て丁重に断り相手にしない。

 彼にとってパーティーに参加する者の中に、心を惹かれる相手は誰一人としていなかった。


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