アメット
なら、誰がいいか――
しかし、明確な人物が思い付かない。
パーティー会場から去り、奥へ下がったシオン。
彼にとって言い寄ってくる女達の行動は猛攻そのもので、アピールをされればされるほどうんざり感が強まっていく。
一人二人相手にするのなら何とか切り抜けられなくもないが、その人数を越えると簡単にあしらうことができない。
また父親の立場があるので邪険に扱うわけにはいかないが、だからといってアークのように誰に対しても優しく振舞うだけのスキルを持ち合わせてはいない。
結果、太股の上に乗ってきた女に対し、冷たく厳しい言葉を言い放ち追い払う。
これで諦めてくれればいいが、現実は簡単にはいかない。
彼女は一度二度非情な言葉を言い放たれたところで、素直に受け入れるような者達ではない。
それは一瞬の気紛れであり、その時は疲れていたから――と、いいように解釈してしまう。
だから次に会った時も同じような言葉を言い、同じように擦り寄ってくるのだから迷惑だ。
学習能力が乏しいのか。
そもそも、する気がないのか。
それとも――
どちらにせよ、彼女達の金と権力に対しての執着は凄まじい。
言い寄ってくる女達はシオンと同年代の者が目立つが、下手すれば四十歳に近い女も言い寄ってくるのだから頭痛を覚える。
それほどまでして手に入れたい、御曹司の妻の座。
所詮、その間に恋愛感情はない。
「シオン様」
壁に寄り掛かり、疲労困憊の表情を浮かべているシオンの姿を目撃したアムルが、慌てて彼の側にやって来る。
アムルは不安そうな表情を浮かべながら、身体を心配してくる。
彼の心遣いにシオンは口許を緩めると、別に何処かが悪いわけではないと言い相手を安心させる。
「それなら、宜しいですが」
「コーヒー、いい?」
「勿論です」
「部屋に持って来て」
「かしこまりました」
「あっ! ブラックで」
立ち去ろうとしているアムルを引き止め、そう付け加える。
シオンの追加の頼みにアムルは頭を垂れると、コーヒーを用意しに向かう。
アムルとの会話を終えたシオンは寄り掛けていた壁から身体を起こすと、力がいまいち入らない身体を引き摺りながら自室へ向かうのだった。