アメット
シオンがこの部屋を使用するのは、何ヶ月ぶりだろうか。
生活に必要な私物は下の階層に移してしまっているので、彼にとって自室というより休憩室のような存在であった。
普段、使用する人物がいなくとも定期的に掃除を行っているのだろう、綺麗に整えられている。
入室と同時に上着を脱ぎベッドの上に放り投げると、近くに置かれていた椅子に腰掛ける。
と同時に、激しい疲労感が身体を支配する。
連日のように徹夜で仕事をしていても、これほどの疲労感を覚えることはない。
やはり例の女達の迫力が関係しているのだろう、溜息が漏れる。
パーティーに参加する言い訳として病院に検査しに行くと言ったが、この調子だと本当に病院に行かないといけないと身体がガタガタになってしまうだろう。
再検査は決定で、出る数字は最悪。
いつか疲労で倒れて、緊急入院という洒落にならない状況に陥るだろうと、シオンは嘆く。
自身の悪化する肉体の状態に付いて考えていると、控え目にドアが叩かれた。
その音の主はアムルで、シオンが注文したブラックコーヒーを運んで来たようだ。
入室と同時にアムルは軽く頭を垂れるとシオンの前まで進み出て、テーブルの上にコーヒーカップを丁寧に置く。
「有難う」
「この状況を旦那様に……」
「……頼む」
「何と?」
「途中で下がることは、父さんは知っている。知っているというか、容認している。だから、下がったということだけで」
「かしこまりました」
「で、一泊したら帰る」
「それで、宜しいのですか?」
「仕事が忙しい。今回も無理矢理理由をつけ、有休を貰ったんだ。だから、長く休むと煩い」
「ご苦労を――」
上司にとやかく言われ仕事に忙殺されているシオンに、アムルは居た堪れない表情を浮かべ言葉を発する。
昔から何処か心配性な部分があるアムルにシオンは苦笑すると、こうなることを選んだのは自分だと話し、また毎日は忙しいがこれはこれで充実していると話す。
それにB階級の者として生活し働いているからこそ、ドームの内情と現状を知ることができる。
上に立つ者は、下の者を知らないといけない。
上から一方的に見ていては思考が固まってしまい、パーティーに参加している者達のようになってしまう。
だから、シオンは後悔していない。