アメット
シオンが語るB階級としての生活の日々に、アムルは何も言うことはせず、沈黙の中で聞き入る。
ただ、将来統治者として〈セレスト家〉を率いるシオンが、多方面から物事を見ることのできる目を養っていることに、グレイが下の階級に行くことを許した理由を知る。
しかし、それについて明確に感情を表面に出すことはせず、普段の冷静な姿を保ち続ける。
それでも思うことはひとつで、立派な一族に仕えていることを誇りに思うのだった。
すると何も発してこないアムルにシオンは首を傾げると、何か心配事があるのか彼に尋ねる。
「いえ」
「不安?」
「不安がないといったら、嘘になってしまいます。ですがお話を聞いていますと、特に心配は……」
「いい友人もいるし、お互い愚痴を言い合っている。で、馬鹿もやって笑い合って……楽しい」
「そのご友人に、お会いしたいものです」
「……会わせたいよ」
だからといって、階級差の違いからアムルにアイザックを会わすことはできない。
直接合わせ話すことができれば、アイザックの気持ちがいい性格に気付くだろう。
それができないことにシオンは残念に思い、この階級制度が早くなくなればいいとアムルに本音を語る。
この世界で、階級制度に面と向かって反論する者は珍しい。
だが、階級制度に異論を唱えているグレイに長い年月仕えているので、アムルも同等の意見を持つ。
だからこそシオンの言葉を普通に受け入れ、彼が友人と呼ぶアイザックに会えない現状について複雑な心境を抱く。
「愚痴……だったね」
「構いません」
「父さんには、内緒で」
「わかっております」
「久し振りに、アムルと話せてよかった。なんと言うか、アイザックと話すのも面白いけど、たまには別の人も話したいと思う。ところで、父さんから家政婦の件について聞いている?」
「はい」
シオンが家政婦を求めていることに対し、アムルは一人暮らしで苦労しているのなら必要だと話す。
また、なるべく早く家政婦を雇えるように裏工作を行なうと、アムルは自身が持つ技術を惜しみなく使用する。
心遣い味方にシオンは口許を緩めると、コーヒーを一口含んだ。