13年目のやさしい願い


ピピピピピッ



「はい。浅木です」



裕也くんの声が耳を素通りしていく。



「牧村先生? 電話してて、大丈夫なんですか? ……あ、なるほど。

え? はい。

本当に、心配ないんですね?

はい。了解しました」



ドアのところで、床に貼り付けられたように動けずにいると、裕也くんがそっとわたしの肩を抱いた。



「陽菜ちゃん」



足がすくむ。


だけど、促されるままに一歩一歩、前に進み、

そのまま、カナの枕元まで連れて行かれた。



両手の甲に大きなガーゼ、頭に包帯。

パッと見て、他にはケガはない。

顔色も悪くなかった。



点滴は、もしもの時のためにつないでいるだけの生理食塩水。



でも、


意識のない……カナ。





……こんなに、怖いんだ。

こんなにも、怖いものだったんだ。





裕也くんがイスを持って来て、そこにわたしを座らせた。

まるで操り人形のように、わたしはされるがままで……。



「……カナ」



大丈夫。

大丈夫。

大丈夫。



流れ落ちる涙をぬぐうこともできずに、

わたしは、ようやくカナに手を伸ばした。

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