13年目のやさしい願い
「ごめんね。そろそろ、行かなくちゃ」
「うん」
「一人で、ここにいられる?」
「うん」
「じゃあ、目が覚めたら、ナースコールしてね」
裕也くんがにっこり笑うのが、視界の端に見えた。
その笑顔があまりに自然だったから、カナは本当に大丈夫で、
きっと、もうすぐ目を覚ますんだと感じられて、
また少しホッとした。
裕也くんは、涙でくしゃくしゃのわたしの顔を見ると、ポケットから取り出したハンカチでわたしの涙をそっと拭いた。
それから、わたしの頭の上から顔を出すと、カナの耳元で、
やたらと大きな声で、
「こら! 叶太!
おまえが陽菜ちゃんを泣かして、どうするっ!?
さっさと起きろ!!」
と怒鳴った。
その声のあまりの大きさに、思わず涙が止まる。
裕也くんは、
「きっと、すぐ起きるよ」
と、もう一度、笑いながらわたしの頭をなでて、病室を出るためにドアに向かおうとした。
その時……。
ずっと握っていたカナの手が、ピクリと震えた。