13年目のやさしい願い
再会してから今日まで、裕也くんから瑞希ちゃんの名を聞くことは一度もなかった。
不自然なくらいに、一度も話題にならなかった。
裕也くんだけじゃなく、カナだって、忘れているはずはないと思うのに、瑞希ちゃんのことは話さない。
瑞希ちゃんは、もういない。
裕也くんが出て行った後の病室で、目をつむると、やはり思い出すのは瑞希ちゃんだった。
だけど、楽しかったエピソードはどこかに飛んでいってしまったのか、思い出すのは、瑞希ちゃんがいなくなってからの寂寥感ばかり。
瑞希ちゃんは、もうどこにもいない。
一人でいると、寂しさに胸がちぎれそうになる。
忘れていいよ。
幸せになって。
ふいに、空から降るように、瑞希ちゃんの最期の言葉が脳裏に浮かび上がり、消えていった。
弱々しくて小さくて、でもどこか凛とした声。
「お待たせ」
裕也くんがそっと病室に入って来た。