13年目のやさしい願い
トントン。
ノックの音に、「はい、どうぞ」と答えた。
朝の回診にしては、早くないかしらって思いながら。
カナが行ってしまってから、15分くらい後。
ゆっくりとドアが開き、おずおずと……としか言いようがない様子で入ってきたのは、思いがけない人物だった。
「……一ヶ谷くん」
一ヶ谷くんは、やたらと神妙な顔でぺこりと頭を下げた。
でも、そのまま入り口から動かない。
そして、何も言わない。
その表情から、言わないんじゃなくて、言えないんだろうなと感じた。
わたしが何か声をかけなきゃ、きっと、彼は何も言えない。
そう思って、ゆっくりと身体を起こした。
最初から少しベッドを上げてあったので、楽に起きられる。
でも、ドアのところまで迎えに行ってあげる元気はない。
と言うか、これから何が起こるか分からなくて、よけいな体力は使えない気分だった。
「一ヶ谷くん」
もう一度、声をかけて、手招きする。
わたしが笑顔を見せると、一ヶ谷くんはホッとしたような顔をして、ようやくゆっくりと歩き出した。