13年目のやさしい願い
後日談 ~後始末~
1.夜中の電話
夜11時。
風呂上がり、部屋でやりたくもない宿題を片付けているとスマホが鳴った。
『着信 牧村明仁』
思いもかけない名前に、一瞬出るのを躊躇う。
「……明兄?」
明兄は恋人ハルの5つ上の兄貴。
そもそもハルとは隣同士の家に住む幼なじみで、オレの兄貴と明兄は同い年で仲が良い。
だから、明兄もオレにとっては兄貴みたいなもんだ。
……けど、遠方の大学に行ってからは、年数度の帰省の時にしか会わない仲でもある。
メールや電話はたまに来るけど。
「はい」
「叶太?」
「うん、どうしたの。珍しいね」
と言いつつ、多分、ハルに関する話だとは当たりをつける。
明兄は、溺愛している妹ハルに直接聞けないことがあると、オレに電話をかけてくる。
「週末、帰るから、空けといて」
「え? 週末こっち来るの!?」
電話の向こうの明兄の言葉に、思わず大きな声を出すと、
「声でかい」
と少し遠くなった声で、冷静に文句が返ってきた。
って言われても、ハルじゃなくてオレに予定を空けておけって言う段階で、穏やかじゃない。
「あ、ごめん。えっと、だけど学校は?」
「週末まであるかよ」
そうですよね。
相変わらずの明兄に、こっそり内心ため息を吐く。
ハルには激甘、ハルの前では他の人間にも少し優しい口調になる明兄も、夜、絶対にオレしかいないと分かっている電話では本性丸出しだ。