13年目のやさしい願い
2.突然の呼び出し
「一ヶ谷、早いな、こんな時間に学校来てんの?」
朝7時40分。
人気の少ない教室でボンヤリ窓の外を見ていると、登校してきた前の席の男子、水森に声をかけられた。
「早いかな? 入学してから、ずっとこの時間だけど」
「あ、そっか。いつも牧村先輩んとこ行ってただけか」
その言葉に、ズキンと来るくらいには、オレの失恋の傷はまだ癒えていない。
「お前こそ早いじゃん」
陽菜ちゃんの話から話題を逸らしたくて、別の話題を振る。
「いつも駅までバスなんだけど、今日は車で送ってもらって、おかげで一本早い電車に乗れた」
「へえ、バス、電車なんだ。どれくらいかかんの?」
「1時間15分くらいかな。一ヶ谷は?」
「オレは電車で30分くらい」
「近いな」
「そうかな?」
入学してすぐにするような、世間話に毛が生えたような他愛もない話題。
だけど、少し前まで、朝に昼に2年の教室に日参していたのもあり、今まで話したこともなかった。
「……で、さ。聞いてもいい?」
「ん? 何?」
「一ヶ谷って、牧村先輩に振られたの?」
……世間話のはずが、一気に恋バナ。
しかも、嬉しくも楽しくもない振られ話の再燃。
話題を逸らしたつもりなのはオレだけで、実際にはまったく逸らせていなかったらしい。