13年目のやさしい願い
そんなこんなで、陽菜ちゃんに振られて一週間とちょっと。
すっかりクラスに馴染んだオレは、校長室に呼び出された。
「一ヶ谷、校長から伝言だ。昼休み、校長室に来いって。忘れるなよ」
と、朝のHRの後に伝えてくれたのは担任だった。
「え? 校長室!?」
驚いて聞き返すと、担任も詳しいことは何も聞いていないらしく、逆に
「何かやったのか?」
と聞き返された。
☆ ☆ ☆
昼休み、言われた通り、チャイムと同時に移動を開始。
早々に職員室の並びにある校長室のドアをノックをすると、
「どうぞ」
と、聞き覚えのある校長のダミ声……ではなく若々しく、少し低めの男性の声がした。
……誰だ?
そう思いつつも、数十人いる教師陣すべてを把握しているわけじゃないから、自分の知らない先生が同席しているのだろうと、そのままドアを開けた。
焦げ茶色を基調にした重厚きわまりないソファセット、執務机、壁際には大きな本棚、そしてどこやらの山の風景を描いた絵。
ソファの横に立っているのは、大学生くらいの男の人だった。
他に人はいない。
校長は?
そして、ただ一人ここにいる男性は、スーツを着ていれば、もしかしたら若手の教師だと思っただろう微妙な年齢。
でも、デザインシャツにカジュアルなスラックスと軽装なため、教師には見えない。
……大学生がなんで?
艶やかな黒髪に、眼鏡をかけても隠せない怖いくらいに整った容姿。
細身で背が高く、だけど、なよなよした印象は一切ない。
なよなよどころか、触れたら切れるんじゃないかとでも言うような鋭さを感じた。