13年目のやさしい願い
「君が一ヶ谷悟くんかな? 初めまして」
その人は満面の笑みを浮かべた。
「え、と、……あの…」
一見百点満点の綺麗な笑みなのに、眼だけがその笑顔を裏切っていた。
射るような強い視線にまともに声が出せずに、言葉を失う。
「どうぞ、とにかく座ろうか」
ってか、オレ、校長に呼び出されたんだよな?
疑問詞が渦巻く中、勧められるままに席に着いた。
「あの……校長先生は?」
そう聞くと、男性は、ああ、と今思い出したとばかりに楽しげに笑った。
「来ないよ。今日は君と直接話したくてね、桐谷先生に部屋を貸してもらえるよう、頼んだんだ」
にこやかな笑顔で語られる内容に、思わず頰が引きつる。
桐谷とは、校長の名字。
校長という敬称を付けずに呼ぶって、どんな関係だ!?
「そうそう。自己紹介がまだだったね。僕は牧村明仁」
笑顔で告げられる名前に、聞き覚えはない。
が、どこかに引っかかりを覚える。
……牧村?
「こう言えば分かるかな? 牧村陽菜の兄だよ」
その言葉と同時に眼がガチリと合う。
にっこりと、そう呼ぶのだろうか、この冷たい笑いも。
目が合った瞬間、恐怖が背筋を駆け上がった。
ぞわっと全身に鳥肌が立ったのを感じると同時に、本能に身を任せて、気がつくと座ったばかりのイスから立ち上がって腰を90度に曲げて頭を下げていた。