13年目のやさしい願い
すっかりテンパっていたオレ。
後は、お兄さんの言うなりだった。
横から囁かれる言葉をひたすら繰り返す。
気がつけば、日曜日の午前中、篠塚先輩と会う約束を取り付けていた。
ようやく電話を切り、脱力したオレは、勧められてもいないのに沈み込むようにソファに座った。
それを面白そうに見て、実に意地の悪い笑みを浮かべた後、お兄さんは思いもかけない言葉を言った。
「叶太」
……は? 今、なんとおっしゃいました?
思わず、勢いよく顔を上げると、執務机の向こうから、かつての恋敵、広瀬先輩が現れた。
「……なんで?」
呟くと、広瀬先輩は呆れたように言った。
「ハルが許しても、オレは正直、はらわた煮えくり返ってるんだ。
せめて約束の行方くらい見届けさせてもらおうと思ってね」
うっ……と言葉に詰まっている間に、広瀬先輩は壁の時計を見て、お兄さんに話しかけた。
「明兄、そろそろ行くね。もうすぐ予鈴なるし」
あきにい。
そうか、陽菜ちゃんと広瀬先輩は幼なじみだ。お兄さんとも仲が良くてもおかしくないんだ。
なぜか、すごく追い討ちをかけられたような気分になった。
「ああ、後は頼むぞ」
「了解」
……あ、後って、何!?
質問する前に、広瀬先輩に頭を小突かれた。
「行くぞ」