13年目のやさしい願い
「ちょっと、いい加減にしてくれない? あんた、一ヶ谷悟のくせに、どんだけ待たせんのよ」
不機嫌そうに早く言えと繰り返す篠塚先輩に、早くも気力が萎えそうになる。
本当の要件を口にしたら、いったいどうなるのだろう?
でも、もう後には引けない。
なぜって、少し高めのパーティションの向こうには、こちらの様子に耳を澄ませる広瀬先輩たちがいるんだ。
「別にオレは、お前たちが退学になろうが、あの女が二度と表を歩けないような目に遭おうが、かまわないんだけどな」
淡々と、むしろ微笑すら浮かべた優しく甘いお兄さんの声に、オレの背筋はまたしても凍りついた。
今朝の話だ。
思い出しても、空恐ろしい。
退学はともかく、二度と表を歩けないって……。
しかし、この人がやると言うならやるのだろう。
それだけのツテを持っているのだろうと、もうオレは分かっている。
陽菜ちゃんのお兄さんに比べたら、篠塚先輩なんて可愛いもんだ……多分。
オレは怒りのオーラを撒き散らす先輩を相手に勇気を振り絞った。
「先輩!」
「な、何よ」
いきなり大きな声を上げたオレに、先輩が一瞬ひるんだ。
「陽菜ちゃんのことなんですがっ!」
「…………はあっ!?」
その名前を聞いて、先輩は心底嫌そうな顔をした。
「あのですね、二度と陽菜ちゃんと広瀬先輩に近付かないで欲しいんですけどっ!!」