13年目のやさしい願い
「あのさ、先輩」
「なによ」
「これ以上やると、先輩、多分、軽くて停学だよ」
「はぁ? あんた、何言ってんの!?」
オレは2枚目の切り札を切る。
これが、オレの力ではなく、すべて陽菜ちゃんのお兄さんの用意したものだというのが癪なくらい、何もかもがお膳立てされていた。
「先輩があの日、自分の学校ズル休みして、制服まで用意してうちの学校に忍び込んだこと、校長にバレてる」
「………え?」
「うちの高校の校長。下手したら、先輩、傷害罪か何かで訴えられるよ」
「な……何を言って、」
オレの言葉の意味をようやく理解して、先輩は顔色をなくした。
「防犯カメラにも、先輩の顔、ちゃんと写ってたみたいだし」
そう。
嘘偽りなく本当のことだ。ビデオこそ見せられなかったが、写真は見せられた。
いわば共犯のオレも冷や汗をかいた。
「この上、嘘で塗り固めた悪口なんて言いふらしたら、名誉毀損まで付いてくるよ」
先輩はしばらくの間、しおらしくオレの話を聞いていた。
けど、徐々に顔に血色が戻ってきたと思うと、おもむろにバンと机を叩き、オレを睨みつけた。
「あんたねえ!! いい加減にしなさいよ!? 一ヶ谷悟のくせに偉そうにっ!」
先輩の方がずっと偉そうだと思うけど……なんて、オレは割と冷静に聞いていた。
だいたい、なんでオレ、ここまでコケにされなきゃけないの?
過去、確かに学校の先輩だった。
同じ部活で世話になった。
けど、別々の高校に入って、自分がこの人の後輩じゃなくなって久しい。