13年目のやさしい願い
オレが慌てもせず、言うことも聞かないからか、先輩は悔しそうにギリギリと歯を噛み締めた。
それから数秒、何を思いついたのか、不意にくすりと笑い、口角を上げてオレを睨みつけて来た。
それから、ふふんと鼻を鳴らし、こう言った。
「あんたに脅されてやったって言うから」
そんな言い訳が、本当に通るとでも思っているのだろうか?
勝ち誇ったように言い放つ先輩が、何だか哀れに見えてきた。
とその時、ガタンとパーテションの向こうで、大きな音がした。
小声で何か話しているらしいが、内容は聞き取れない。
ガタイの良い長身の人影が立ち上がったのが見えた。
そうして、3枚目の切り札が自分からやって来た。
「篠塚さん」
「……え? 衛…先輩?」
一ヶ谷衛、オレの兄貴はオレたちのテーブルに近づいてくると、篠塚先輩に声をかけた。
その声は、ひどく硬質だった。
「あ、あ、あの……これは!!」
兄貴がどこまで聞いているのか計っているのだろうか?
先輩は何か言い訳をしようと口を開きながらも、兄貴の顔色を伺い、続きを口にしなかった。
「言い訳はいらない」
その一言で、兄貴は初手から篠塚先輩の次の言葉を封じた。
「で、でも……あの、違うんです!」
何が? と思ったのは、兄貴も同じだったみたいだ。
「何が違う? 君が学校をズル休みして他校に忍び込んで、体調が悪くて寝込んでいる、何の罪もない女の子を襲撃したこと?」