13年目のやさしい願い

「そ、それは……学校は確かに休みましたけど、さ、悟くんの学校になんて……」

「君に制服を貸した子からも話を聞いたよ」

「……え?」

「洗い替えの制服を借りたんだってね」

「……あいつ!」



篠塚先輩の顔が悔しげに歪んだ。



「一回しか着てないのに、ちゃんとクリーニングして返したんだって? マメだね」



兄貴は反論を許さず、そのまま次の攻撃に移った。



「それから、うちの弟を利用したね?」

「だけど、それは!」

「そうだね、確かにコイツも悪い。そそのかされて乗ったのはコイツだ」



と兄貴はオレの方をチラリと見た。

オレは思わずうな垂れる。

そう。悪魔の誘惑に負けたのはオレだ。
悪魔もろくでなしだけど、オレだってダメ人間に違いはない。



「けどね、それ以前にも君はコイツをまるで自分のパシリのように使っていたじゃない?

こんなバカをしでかすヤツでも、オレには可愛い弟だ。

その弟をアゴで使われたら、良い気はしない」



兄貴は手を伸ばすとオレの頭をくしゃりとなでた。

兄貴は先輩を真っ直ぐに見つめた。



「君はオレのことが好きだったらしいね」

「……え?」



瞬間、先輩の顔から怒りや苛立ちなどの醜い感情が、見事なほどにスッと消えた。

ずいぶん久しぶりに見る素の表情。

こんなにも厳しく追及されているのに、

広瀬先輩を次の恋だと言っていたのに、

未だに篠塚先輩の心には兄貴がどっしりと居座っているらしい。
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