13年目のやさしい願い
篠塚先輩は、兄貴が好きで好きで、かなり頑張って2ランクもレベルの高い高校まで追いかけて行った。

なのに、高校に行ったら、兄貴にはもう彼女ができていた。

高校生になったら、今度こそ告白するんだ、もしかしたら想いが通じるかも知れない、

そんな先輩の期待は、入学早々に破れてしまった。

兄貴に彼女ができたことを教えなかった……、そのことを責め立てて、先輩はオレに言うことを聞かせたんだ。

それは、昨日、広瀬先輩立ち会いのもと、兄貴に告白させられた。



「その辺りの事情を利用して、悟に言うことを聞かせたとか?」



兄貴はかなり厳しい顔で言い募る。

大元の原因が自分だと言うのを、相当苦々しく感じているみたいだった。

中学でも高校でも、部活で主将を務めた兄貴は、真面目で責任感と正義感が人一倍強い。

昨日初めてしたこの話。
倒れた陽菜ちゃんがそのまま入院までしたという事実は、相当堪えたらしい。

話を聞き終えた後、顔を歪めて頭を抱えんばかりに苦悩する兄貴に、オレは思わず、「ごめん」と謝っていた。

兄貴に責められても、篠塚先輩は何も反論しなかった。
できないらしかった。

何とか言い訳しようと「でも」とか「だけど」を繰り返していた、先ほどの勢いはどこかへ行ってしまったようだった。

昔から、先輩は兄貴の前でだけ、こんな感じでしおらしい。

その姿は、恋する乙女そのもので、いつもの全身に張り巡らされた棘のようなものが取れて、けっこう可愛い。

好きとか、好みとか、そんなのではないけど、素の先輩は嫌いではなかった。
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