13年目のやさしい願い
「君は確かに整った可愛い顔をしているかもしれない」
兄貴は静かに語り出した。
「部員たちにも人気があったし、マネージャーの仕事も頑張ってくれていたね」
兄貴は硬い表情を崩さないまま、文字にしたら、まるで篠塚先輩を褒めているように聞こえる言葉を続けた。
篠塚先輩は、兄貴の強張った声と、声に合わない褒め言葉のギャップに、どう反応して良いのか戸惑っていた。
その戸惑いは、結果的に正しかった。
次に兄貴の口から出てきたのは、篠塚先輩をどん底に突き落とす言葉だったから。
「だけどね、ボクは君にはまるで魅力を感じなかったよ」
篠塚先輩の顔が歪んだ。
ぎゅっと唇を噛んだのが見えた。
「君が、ボクに気があるのは分かっていた。
いつだってボクばかりをひいきしようとしたね。
あれは、いい気がしないよ、正直。
君は部のマネージャーだったのにね」
そう。
篠塚先輩は明らかに、いつも兄貴を優遇していた。
兄貴が主将だったからと言っても、それは明らかに行き過ぎだった。
なのに当時、兄貴はまるで気付いていなくて、なんて察しが悪いんだと思っていたけど、そうか、敢えて無視していたんだ。
あまりに兄貴に伝わらなさすぎて、そのえこひいきは他の部員から大きな反発を喰らうこともなく、逆に篠塚先輩を気の毒な目で見る人も出るくらいだった。
だからこそ、そんな状態でも、部員同士で揉めたり、空中分解したりはしなかった。
兄貴は、鈍感過ぎだとか、残念なイケメンとか密かに言われて、誰からも妬まれるようなことなく慕われ、卒業していった。