13年目のやさしい願い
「人に好かれたかったら、まず自分を磨け。外見じゃなく、内面を磨け」
兄貴はそこで一息つくと、おもむろにオレの方を見た。
「お前もだぞ」
思わずビクリと肩をすくめる。
「行動するのが悪いとは言わない。
だがな、好きになった子を困らせたり、傷つけたりするようなことは二度とするな」
そのまま兄貴はオレたちを睥睨した。
兄貴の眼は座っていた。
「お前ら、牧村さんとこに行って、土下座して謝ってこい」
「ええっ!?」
予想外のその言葉に、オレと先輩の声がハモった。
ついでに、パーティションの向こうからも、「マジで!?」とか何とか驚愕の声が漏れ聞こえてきた。
「ちょっと、兄貴!?」
「衛先輩!?」
オレたちの反応を見ても、兄貴は一歩も引く気はないらしかった。
「手土産……いや、お詫びの品を買って、今から行くぞ!」
その判断の速さは、確かに兄貴の良いところだ。
けど、陽菜ちゃんは、それ、喜ばないと思う……ってかむしろ嫌がるんじゃないかと。
「いや、あの、兄貴……」
でもオレの言葉は、兄貴のひと睨みで飲み込まれて闇に消えた。
先輩は、初めて見る兄貴の凄まじい怒りのオーラに、既にお腹いっぱいという様子。
「悟!」
「はいっ!」
兄貴の声に思わず、背筋を正した。
子どもの頃から、兄貴はできた兄ちゃんだった。優しいし、カッコいいし、頭も良い。
勉強も野球も面倒がらずに教えてくれる。2歳しか離れていないのに、体感年齢では4〜5歳離れている気がしていた。
そんな理想の兄に、オレは今、服従させられた気分を初めて味わっていた。