13年目のやさしい願い
それにしても、どうして、こんなところに来ちゃったんだろう?
バスなら学園全体の表門の前に着くし、電車の駅から歩きだとしても、表門の方に出る。
車通学以外で、生徒がこんな場所から校舎に入るとは思えない。
そんなことを考えながら、
「……中等部も杜蔵だけど、」
そもそも、わたしは二年だよと伝えようとしたのに、その前にその子は、
「そっか! そうだと思った!」
と、嬉しそうに笑った。
まだ幼さの残る、笑顔が可愛い男の子だった。
「オレ、一ヶ谷悟(いちがやさとる)」
満面の笑顔で自己紹介をされて、思わずわたしも名乗ってしまった。
「あ。牧村陽菜です」
「はるなちゃん? どんな字を書くの?」
「太陽の陽に、菜の花の菜」
「可愛いね! ピッタリだ!」
「あ、ありがとう」
驚くほどに感情表現が素直で、面食らう。