13年目のやさしい願い
「今、体調が悪いなら、最初から学校休めば良いって思っただろ?
普通なら、休むよな。そりゃそうだろうね」
広瀬先輩はひたすら静かに語る。
「ハルね、心臓が悪いんだよ。
運動は一切禁止されていて、走ることも……早歩きすらできないんだ。
夏の暑さや冬の寒さに弱くて、その時期になると、枕から頭が上がらない日も多くてね。
そういう日は心臓がうまく動いてなくて、家で酸素マスクをして寝てるしかない。
毎年のことで、ハルもそれはよく分かってる。
だから、今の時季ならまだ身体が動くからって、レポートじゃなくて、できるだけ授業を受けたいからって、あの日も来てた」
広瀬先輩がテーブルの上で握っていた拳をグッと握りしめた。
「オレがなんであんなタイミングで駆けつけられたか、分かる?」
広瀬先輩は「答えて」と篠塚先輩に促した。
淡々と語られる話を聞き、篠塚先輩の不遜な態度もなりを潜める。
「あ、あの子がケータイで、呼んだから」
広瀬先輩が小さく頷いた。
「そう、その通り。
じゃあさ、授業中なのに、なんでオレが駆けつけられたと思う?」
「え……それは」
「あの日は、保健室の先生が出張で一日いなかった。これは知ってるよな?」
篠塚先輩が促されて、頷いた。
「オレね、ハルが急に具合が悪くなった時、すぐに駆けつけられるように、スマホを机に上に置いてあったんだ。
もちろん、先生の許可を取ってね」